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租税条約の届出書を提出していないにも関わらず、軽減税率で源泉徴収していたら、どのように対処したらよいのか?

税務署からは、通常の税率により計算した源泉徴収税額とこれまで納付した税額との差額(不足税額)を納めるよう指導されるはずです。
それだけならまだしも、延滞税、不納付加算税まで納めるよう指導されてしまいます。

ところが、心配いりません。
ある判決を境に、問題ないことになりました。

この記事では、まず、国税が主張する原則とされる取り扱いを確認し、次にそれを覆すことになった判例を紹介することにします。
講学上興味のある方以外は、その裏付けとなる裁判例、条文は読み飛ばしてもらって結構です。
最後に、筆者からのこぼれ話を紹介します。

国税庁タックスアンサーによると

国税庁タックスアンサーNo.2888「租税条約に関する届出書(源泉徴収関係)」には、
原則的な取扱いが以下(グレースケール)のように示されています。

源泉徴収義務者は、非居住者への支払の際、
「租税条約に関する届出書」を税務署に提出していない場合には、
租税条約に規定している税率を適用するのではなく、
通常の源泉徴収税率(20.42%)によって源泉徴収を行う。

「租税条約に関する届出書」を非居住者への支払の前日までに税務署に提出すること、としています。

源泉徴収を受けることとなった非居住者は、
「租税条約に関する源泉徴収税額の還付請求書」を
税務署に提出することで、
軽減または免除の適用を受けた場合の源泉徴収税額と、
通常の源泉徴収税額(20.42%)により源泉徴収税額との差額について、
還付を請求することができる。

非居住者側は、最終的に還付を受けられるので結果オーライですが、
源泉徴収義務者側は、本来の納期限までに納税額が不足してしまったため、延滞税、不納付加算税が課されてしまうことになります。

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裁判例によると

ところが、東京地裁平成27年5月28日の判決によると、租税条約の届出書の提出は、租税条約の効力要件ではないと結論づけられました。

どういうことかと言うと、租税条約に関する届出書は、後からでも提出できるということです。

具体的には、20.42%ではなく、租税条約に規定している10%で源泉徴収していたとしても、後から届出書を提出すれば問題ないことになります。

上級審では、届出書の論点については審議されませんでしたので、この結論は確定です。

東京地裁平成27年5月28日判決の要諦

筆者なりの解釈となりますが、実特法*1実特法省令*2の法律の造りの欠陥が指摘され、事後提出でも認めざるを得ないこととなったというところでしょうか。


*1 租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律
*2 租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する省令

裁判所は以下のように判示しました。

・法律が下位の省令に課税要件等の定めを委任する場合には、憲法84条の租税法律主義の本質を損なってはならないこと。
・実特法省令は、実特法12条の委任規定から基づくものであるが、実特法は一般的、包括的な委任であって、課税要件等の定めを省令に委ねたものと解することはできないこと。
・実特法省令に基づく届出書を提出しなかったことをもって、租税条約の適用を否認することはできないこと。

以下エビデンスを確認したい方は参考までに。

参考

東京地裁平成27年5月28日判決

被告は国税、原告は納税者になります。

東京地裁平成27年5月28日判決(抜粋)

2 検討
(1)争点1(実特法省令9条の2第1項又は7項の定める届出書を提出しなければ、日米租税条約7条1項による税の軽減又は免除を受けることができないのか否か。)について

ア  国民は、民主主義の下、その総意を反映する租税立法に基づいて納税の義務を負うものとされており(憲法30条参照)、その反面において、新たに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とされていること(憲法84条)に鑑みれば、納税義務者、課税標準等の課税要件はもとより、租税の賦課、納付、徴収等の手続についても、全て法律により規定すべきものである(最高裁大法廷昭和30年3月23日判決・民集9巻3号336頁、最高裁大法廷昭和37年2月21日判決・刑集16巻2号107頁)。そして、法律により、政令などの下位の法令に課税要件等の定めを委任することは可能ではあるものの、その委任の方法は、当該法律において委任の内容を個別的・具体的に限定するなどして、租税法律主義(憲法84条)の本質を損なわないものでなければならず、委任の内容を何ら限定することなく、包括的・一般的に委任することは、憲法84条に反するものとして許されないというべきである。

イ  原告は、本件各係争年における国内源泉所得について、実特法省令に基づく届出書を提出していない(当事者間に争いがない。)ところ、被告は、実特法省令に基づく届出書を提出していない以上、日米租税条約7条1項による税の軽減又は免除を受けることはできない旨主張している。
 そこで検討するに、実特法省令9条の2は、租税条約の特定規定に基づき、税の軽減又は
免除を受けようとする場合には、実特法省令に基づく届出書を提出しなければならない旨を定めており、日米租税条約7条1項は、上記特定規定に該当するから(実特法12条、本件総務大臣等告示)、実特法省令9条の2によれば、原告は、国内源泉所得について、日米租税条約7条1項による税の軽減又は免除を受けるに当たり、実特法省令に基づく届出書を提出すべきであったということができる。
 しかしながら、実特法省令9条の2は、実特法省令に基づく届出書を提出しなかった場合において、租税条約に基づく税の軽減又は免除を受けることができない旨を具体的に規定しているわけではない。また、実特法省令は、実特法12条の委任規定に基づくものであるところ、同条は、「租税条約の実施及びこの法律の適用に関し必要な事項は、総務省令、財務省令で定める。」とのみ規定しており、その委任の方法は、一般的、包括的なものであって、租税法律主義(憲法84条)に照らし、実特法12条が課税要件等の定めを省令に委ねたものと解することはできない。そうである以上、同条が、実特法省令に対し、届出書の提出を租税条約に基づく税の軽減又は免除を受けるための手続要件として定めることを委任したものと解することはできないというべきである。

ウ  この点、被告は、日米租税条約による特典を受けるための実体的要件は、日米租税条約が定めており、実特法省令9条の2は、実特法12条による委任を受けて、上記実体的要件の存否等を確認するための手続的な事項を定めたものにすぎないなどと主張している。しかしながら、実特法省令に基づく届出書を提出しなければ、租税条約による特典を受けることができないとするならば、実特法省令に基づく届出書を提出することは、租税条約の特典を受けるための手続要件になるものと解さざるを得ない。前記検討のとおり、実特法12条の委任規定の内容は、一般的、包括的なものであるところ、同条が法律よりも下位の省令に対し、租税条約及び実特法を実施するための手続的細則を定めることを委任したものと解することはできるとしても、省令の定める手続を経なければ、租税条約の特典を受けることができないという意味での手続要件を定めることを委任したものと解することはできないというべきである。これに反する被告の主張は採用することができない。

エ  以上によれば、原告が日米租税条約7条1項による税の軽減又は免除を受けることができるか否かについては、同項に基づき判断されるべきものであって、原告が実特法省令に基づく届出書を提出しなかったことをもって、同項の適用を否定することはできない

実特法第12条

租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律

第12条(実施規定)
第2条から前条までに定めるもののほか、
租税条約等の実施及びこの法律の適用に関し必要な事項は、
総務省令、財務省令で定める。

上記省令は、実特法省令第9条の2になります。
条文が長すぎるので上記にリンクを貼っておきます。

憲法第84条

憲法
第84条
あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、
法律又は法律の定める条文によることを必要とする。

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こぼれ話

国税職員OBから聞いた話ですが、この東京地裁平成27年5月28日判決は、国際課税に携わる職員ならば皆知っているそうです。

もし、税務調査で「租税条約に関する届出書」の未提出を指摘された場合は、この判決を盾に反論しましょう。

判決日の覚え方は、船井(275)ニヤ(28)ける