前回から引き続き、確定申告を振り返って題材を。
本年初めて弊社に個人の確定申告を依頼したお客様でこんなケースがありました。
・前年から不動産所得の確定申告をしている。
・本年7月から事業所得を生ずべき業務を開始した。
・事業所得の業務を始めた日から2月以内に「青色申告承認申請書」を税務署に提出した。
この場合、本年分から青色申告書を提出することが可能でしょうか?
答えは、本年分は青色申告書を提出することはできず、来年分からになります。
お客様に「青色申告は来年分からになる」と説明したところ、納得いかない様子でした。
というのも、お客様は税務職員に確認して「本年分から青色申告できる」と説明を受けていたようなのです。
「税務職員が正しくて、税理士の貴方が間違えている」といわんばかりでした。
もちろん、納得させることが難しいことは、想定の範囲内でしたので、事前に専門書のコピーを準備しておき、お客様に確認していただきましたが、意外にこの説明が掲載されている書籍が少なかったです。
だから、税務署の一職員だと間違えてしまうのかもしれません。
そこで、今回は、青色申告承認申請で間違えやすい、所得税でいう「新たな業務開始」を説明します。
♦目次♦
青色申告承認申請書の提出期限
原則
その年3月15日まで
例外(その年1月16日以後新たに業務を開始した場合)
その業務を開始した日から2月以内
根拠条文の確認
「青色申告承認申請書」の提出期限については、条文中に記載があります。
所得税法第144条(青色申告の承認の申請)
その年分以後の各年分以後の所得税につき
前条の承認を受けようとする居住者は、
その年3月15日まで(その年1月16日以後新たに同条に規定する業務を開始した場合には、その業務を開始した日から2月以内)に、
当該業務に係る所得の種類その他財務省例で定める事項を記載した申請書を
納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。
読みずらいので、読みやすくすると以下のようになります。
所得税法第144条(青色申告の承認の申請)
その年分以後の各年分以後の所得税につき
青色申告の承認を受けようとする居住者は、
その年3月15日まで(その年1月16日以後新たに不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務を開始した場合には、その業務を開始した日から2月以内)に、
青色申告承認申請書を
納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。
条文だけですと、追加で事業所得あるいは不動産所得を生ずべき業務を始めた場合は、始めた日から2月以内に「青色申告承認申請書」を提出すれば問題ないような印象を受けます。
新たな業務開始とは?
新たに不動産所得、事業所得などの業務を開始した場合とは、初めて青色申告ができるような状態を言います。
つまり、事業の追加は、文言中で言う「新たな業務開始」のケースに該当しないのです。
したがって、過去に不動産所得、事業所得の確定申告機会(結果として確定申告義務なしの年度を含む)があった者がこれから青色申告を始めるためには、必ず3月15日までに「青色申告承認申請書」を提出しなければなりません。
感想
正直、文言中から自力で正しい理解に到達するのは難しいと感じます。
筆者は、体系的に所得税の考え方を身につけている自負があるので、お客様から説明を受けて、すぐ違和感が沸きました。
というよりも過去に知識の地図が真っ白なところに直接知識を塗り付けられていたから、所得税の勉強から10年以上を経た今でも記憶を辿れることができたというのが真相でしょう。
確認のために専門書から該当の記述箇所を探しました。
でも、なかなか分かりやすい解説がありませんでした。
結論だけ覚えておけば良い、と割り切ることも必要なのかもしれませんが、通達で説明を補足するなど今後の改善を期待します。