【質問】
2棟あるアパートのうち1棟を売却したら、部屋の総数が12室から6室になってしまいます。
すると、いわゆる「5棟10室基準」から外れてしまいます。
この場合、売却した年の確定申告で、不動産所得から65万円の青色申告特別控除は受けられるのでしょうか?
よくある疑問だと思います。
今回はこの疑問を解説していきます。
♦目次♦
イントロダクション~不動産所得特有の論点:事業的規模と業務的規模
不動産の貸付の規模が事業的規模の場合と業務的規模の場合には、所得税を計算するうえで異なる点がいくつかあります。(相違点は割愛します。)
したがって、確定申告しようとする年分の不動産の貸付の規模が事業的規模か業務的規模かを判定する必要があります。
その判断基準は、いわゆる「5棟10室基準」です。
この基準は所得税法基本通達26-9に定められています。
5棟10室以上ならば、事業的規模。
それより少なければ、業務的規模。
以上が大別の仕方、判断になります。
最大65万円となる青色申告特別控除の要件
青色申告特別控除は、所得税法ではなく租税特別措置法により要件を規定しています。
租税特別措置法第25条の2(青色申告特別控除)
第3項
青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている個人で
不動産所得又は事業所得を生ずべき事業を営むもの(小規模事業者の現金基準の適用を受ける者を除く。)が、
青色申告者の帳簿書類の規定により当該事業につき帳簿書類を備え付けて
これにその承認を受けている年分の不動産所得の金額又は事業所得の金額に係る取引を記録(・・・省略・・・)している場合には、
その年分の不動産所得の金額又は事業所得の金額は、
これらの所得の金額から最大65万円を控除した金額とする。
上記条文には、「不動産所得を生ずべき事業を営むもの」とあります。
気づきにくいですが、ここでいう「事業」は「事業的規模の事業」になります。
先述したとおり、不動産所得には事業的規模と業務的規模があります。
その違いによって所得税の計算方法が異なります。
事業的規模か業務的規模かの違いによって適用を受けられる青色申告特別控除が違います。
不動産所得を生ずべき事業を営むもの・・・青色申告特別控除額は最大65万円
不動産所得を生ずべき業務を営むもの・・・青色申告特別控除額は10万円(※同法同条第1項)
租税特別措置法の文言だけでは、年の途中で事業的規模でなくなった場合はわかりません。
そこで、行間を読むために下記黄色の補足をいれてみると、2通りの解釈があるのではないか?という疑問が生じます。
A 不動産所得を生ずべき事業を年を通じて営むもの
B 不動産所得を生ずべき事業をその年のうち一時でも営むもの
仮に、年の途中で10室あるアパートを購入し不動産所得が生ずることになりました。
定められた期限内にその年分からの青色申告の承認申請をしました。
すると、その年分の確定申告は5棟10室基準を満たすのですから事業的規模になります。
当然、青色申告特別控除額は、最大65万円になります。
購入したケースを考えると、年を通じて事業的規模である必要は全くないわけです。
逆に、売却したケースを考えて、事業的規模でなくなったら最大65万円の控除額が受けられないとしたら、それは課税の公平とは言えませんよね。
そう考えると、正解はAではなくBと推測できます。
青色申告の趣旨からの結論
法律、通達の文言からハッキリしない場合には、法律の趣旨を確認するに限ります。
青色申告の特別控除額は、記帳慣習の確立のための特典の一つとして法律上設けられたものです。
申告納税制度が有効かつ円滑に実施されるためには、
納税者が自ら正しい記帳に基づく適正な申告と納税を行うことを推進する必要がある。
そこで、真の申告納税制度を確保発展させるために、
シャウプ勧告に基づく昭和25年の税制改革で青色申告制度が設けられた。
そして、この制度の普及を図るための施策として、青色申告者に種々の特典を与えている。
(税務大学校 所得税法(基礎編)講本より)
したがって、1年のうちにどのタイミングで事業的規模ではなくなったとしても、申告年において複式簿記に基づく記帳をおこなって貸借対照表を確定申告書に添付するところまでいけるのならば、「正しい記帳に基づ」いているはず・・・です。
ですから、年の途中で事業的規模から業務的規模になってしまったとしても、正しい記帳を行っていることに違いはなく、その特典なのだから青色申告特別控除(最大65万円)の適用は受けられます。
当然の結論ですね。