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2020年確定申告をふりかえってシリーズとして、今回は不動産所得の収入金額の取扱いを取り上げます。

税理士に依頼せず、自力で不動産所得の確定申告書を作成している方の多くは、意識することなく現金基準を用いて会計ソフトで帳簿を作成し、確定申告書まで作成しています。
結果、特に問題がないことがほとんどです。

しかしながら、管理会社を使わず、自ら物件を管理し、賃借人から家賃収入を収受している場合は少し事情が違ってきます。

管理会社の資金回収、オーナーへの送金の時期は、個々の会社によって違います。
例えば、2物件を持っている不動産オーナーを考えてみます。


ひとつの物件は自らが賃料回収し、不動産管理会社を使っていません。
もう一方の物件は遠隔地にあるので、賃料の回収を不動産管理会社に委託しているとします。
不動産管理会社は、前月に賃料(当月分)を受け取り、当月中の決められた日にオーナーに送金する会社が多いです。
すると、自力管理の場合は、1月分の賃貸料は12月までに入金されるので、12月に収入計上。
他力管理の場合は、1月分の賃貸料は12月中に管理会社の回収を経て1月に入金されるので、1月に収入計上。

このように、1月分の賃貸料が年をまたいで収入計上されてしまいます。

何か、マズイと思いませんか?

原則は支払日基準

事業所得の計算と違い、不動産所得の計算は、収入金額の計上に特徴があります。
原則的な収入計上は、ナント!会計慣行を無視しているのです。
不動産所得の収入金額の計上時期は、通達により定められています。

所得税法基本通達36-5不動産所得の総収入金額の収入すべき時期)

不動産所得の総収入金額の収入すべき時期は、
別段の定めのある場合を除き、
それぞれ次に掲げる日によるものとする。
(1)契約又は習慣により支払日が定められているものについてはその支払日
支払日が定められていないものについてはその支払を受けた日(・・・省略・・・)
(2)・・・省略・・・

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例外の期間対応基準

会計慣行を無視していると言っても、同じ個人の所得計算のなかでも事業所得の計算は一般に公正妥当な会計処理の基準に従った計算と言えますので、できれば、同じ考え方の方がバランスがいいですよね。
そこで、1973年に通達で企業会計と同じ方法を認めることにしました。

所得税個別通達29(不動産等の賃貸料にかかる不動産所得の収入金額の計上時期について)

(不動産等の貸付けが事業として行われている場合)

 所得税法第26条第1項に規定する不動産等の賃貸料にかかる収入金額は、
所得税基本通達36-5《不動産所得の総収入金額の収入すべき時期》により、
原則としてその貸付けにかかる契約に定められている賃貸料の支払日の属する年分の総収入金がに算入するのであるが、
その者が不動産等の貸付けを事業的規模で行っている場合で、
次のいずれにも該当するときは、
同法第67条の2《小規模事業者の収入及び費用の帰属時期》の規定の適用を受ける場合を除き、
その賃貸料にかかる貸付期間の経過に応じ、
その年中の貸付期間に対応する部分の賃貸料の額を
その年分の不動産所得の総収入金額の算入すべき金額とすることができる。

(1)不動産所得を生ずべき業務にかかる取引について、
その者が帳簿書類を備えて継続的に記帳し、
その記帳に基づいて不動産所得の金額を計算していること。
(2)その者の不動産等の賃貸料(注)にかかる収入金額の全部について、
継続的にその年中の貸付期間に対応する部分の金額を
その年分の総収入金額に算入する方法により所得金額を計算しており、
かつ、
帳簿上当該賃貸料にかかる前受収益および未収収益の経理が行われていること
(3)その者の1年をこえる期間にかかる賃貸料収入については、
その前受収益または未収収益についての明細書を確定申告書に添付していること。

(注)「不動産等の賃貸料」には、不動産等の貸付けに伴い一時に受ける頭金、権利金、名義書替料、更新料、礼金等は含まれない。

(不動産等の貸付けが事業として行なわれていない場合)

2 その者が不動産等の貸付けを事業的規模で行なっていない場合であっても、
上記の(1)に該当し、
かつ、
その者の1年以内の期間にかかる不動産等の賃貸料の収入金額の全部について
上記の(2)に該当するときは、
所得税法第67条の2の規定の適用を受ける場合を除き、
その者の1年以内の期間にかかる不動産等の賃貸料の収入金額については、
上記の取扱いによることができる。

例外処理である期間対応基準を採用するには、以下の要件をすべて満たす必要があるということです。

  • 小規模事業者の現金基準の特例の適用を受けていないこと 
  • 帳簿書類を備えて継続的に記録していること
  • すべての収入について、継続的に発生主義的な期間対応計算をしていること
  • 事業的規模の場合は、1年を超える前受金、未収賃貸料等の明細書を確定申告書に添付すること

経理を一通り学んでいる方には、原則の支払日基準より例外処理である期間対応基準の方がしっくりくると思います。
かえって、原則処理の方が念頭にない方が多いのではないでしょうか。

注意点として例外処理である期間対応基準を採用するには、収益物件が複数ある場合であっても、 上記個別通達の文言に「全部」とあるため、 その全てについて期間対応した経理処理をしなければなりません。

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期間対応基準の方がメリット大!

原則処理の支払日基準よりも例外処理の期間対応基準を採用した方がメリットがあります。

  • 簿記の知識があれば、発生主義的に処理する期間対応基準の方が馴染みが深いこと
  • 会計ソフトを使用しているならば、期間対応基準の方が前期比較損益計算書によるデータ比較に便利なこと
  • 1回限りであるが、支払日基準から期間対応基準に変更した年分については、賃貸料収入が11か月分の計上になることから所得税(住民税も)の節税が期待できること

賃貸契約書の多くは、「当月分の賃貸料は、前月末日までに支払う」といった内容です。
したがって、12月末までに入金された翌年1月分の賃貸料は、その年の収入金額にカウントされます。
ですから、支払日基準から期間対応基準に変更する年の不動産所得の収入金額のうち、1月分はすでに前年分の収入金額となっています。

結果、支払日基準から期間対応基準に変更した年分の不動産所得の収入金額は、2~12月の11か月分となります。

反対に、期間対応基準から支払日基準に変更する場合は、13か月分の収入金額になってしまいます。