税にまつわるニュースは、頻繁に報道されています。
そのなかでも先日7月30日に報道されたニュースは気になりました。
今回初めて海外資産を申告しなかったことにより告発されたというニュースです。
いろいろなニュースサイトを読んだのですが、一番詳しかったのは日本経済新聞の記事でした。
もちろん日経新聞の記事だけでは足りないので、いろいろ情報を補足しました。
私が推察した部分もありますが、まとめてみました。
♦目次♦
告発事実の要旨
大阪国税局は、個人事業者Nを捜査した結果、以下の事実を把握した。
平成27年 売上を他人名義預金に入金させる等により事業所得を除外(過少申告)
平成28年 同様の行為を行ったうえで、確定申告書を提出しなかった(無申告)
平成29年 平成28年と同じ
平成27~29年の3年間の所得約2億1,500万円の申告漏れ
平成27~29年の3年間の所得税額約8,300万円を免れていた
Nに所得税額約8,300万円と重加算税・延滞税約2,900万円、あわせて約1億1,200万円が追徴された。
Nは平成29年12月31日時点で国外預金が約7,300万円あったが、国外財産調書を提出期限までに提出していなかった。
大阪国税局は、この調書の未提出を国外送金等調書法違反としてNを京都地方検察庁に告発した。
国外財産調書とは?
国外財産調書制度の概要
国外財産調書制度は、平成26年から創設されました。
課税当局は、富裕層の財産の国外移転に悩まされていたため、富裕層の情報管理を重要視する必要がありました。
そこで、国外財産の捕捉のために国外財産調書の制度が整備されました。
その年12月31日時点で5,000万円超の国外財産を所有する者に提出義務が課されています。
国外財産調書を提出しなかった場合の罰則
以下の行為をした場合には、1年以下の懲役または50万円以下の罰金
・偽りの記載をして国外財産調書を提出した場合
・正当な理由がなく提出期限内に国外財産調書を提出しなかった場合
・国外財産調書の提出に関する調査について行われる税務職員の質問に対して答弁せず、若しくは偽りの答弁をし、又は検査を拒み、妨げ、若しくは忌避したとき
・国外財産調書の提出に関する調査について行う物件の提示又は提出の要求に対し、正当な理由がなくこれに応じず、又は偽りの記載若しくは記録をした帳簿書類その他の物件(コピーを含む)を提示し、若しくは提出したとき
摘発、告発の背景
今回、全国初のケースとして国外送金等調書法違反が報道されたのだが、これまで国税当局が時間を準備して布石を敷いてきた結果が実ったものである。
なぜなら、今回平成29年の国外財産調書の未提出が告発されたのであるが、国外財産調書制度は平成25年末のものから平成29年末まで、過去5回の情報がすでに国税当局に蓄積されていた。
くわえて、平成30年9月には、初めてCRS(共通報告基準)による参加国間の間で金融口座情報の提供が行われている。
初めてのCRSにより、日本の国税当局は、外国にある日本人の金融口座の残高、利子・配当の収入など64ヶ国から550,705件の情報提供を受けたとされている。
したがって、CRSから受けた日本人の国外財産の情報、自己申告による国外財産の未提出状況などを突合した結果、今回全国初の告発になったというしかない。
まだまだ、国外財産調書の提出義務があるにもかかわらず、未提出の者は大勢いるとみられ、初の告発を大々的に報道することはミセシメである。
あとがき
長い間税理士業界にいると、「脱税している状況を国税にばれないようにしてくれ」、「(ブラックな方法で得た)国外にある財産を合法的に国内に移動できる方法はないか」、などなどトンデモない相談を受けることがある。
仮にこのような不届きな輩に手を貸したら、脱税幇助となり税理士資格を失ってしまうので、お引き取り願っている。
引き受ける税理士はいないことを皆様には心に留めていただきたいと思います。