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令和1年12月13日、与党(自由民主党・公明党)令和2年度税制改正大綱が発表されました。

今回の税制改正では、金売買を使った消費税還付スキームが封じ込められると予想していた専門家が多かったように思います。

ところが、フタを開けてみると、意外なところに手をつけた印象です。

この税制改正大綱を骨子とした改正が実現してしまうと、金売買を使った消費税還付を目的としない事業者(消費税の課税事業者)にとっても、本来消費税の税額控除をできるはずだったのが、余計な消費税を納める事態になってしまいます。

令和2年度税制改正大綱(抜粋)を確認

(令和2年度税制改正大綱84頁から)
居住用賃貸建物の取得等に係る消費税の仕入税額控除制度等の適正化

① 居住用賃貸建物の取得に係る消費税の仕入税額控除制度について、次の見直しを行う。

イ 住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物であって
高額特定資産に該当するもの(以下「居住用賃貸建物」という。)の課税仕入れについては、
仕入税額控除制度の適用を認めないこととする。
ただし、居住用賃貸建物のうち、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな部分については、
引き続き仕入税額控除制度の対象とする。

ロ (省略)

②~④ (省略)

(注)上記①の改正は令和2年10月1日以後に居住用賃貸建物の仕入れを行った場合について、・・・(省略)・・・適用する。
ただし、上記①の改正は、同年3月31日までに締結した契約に基づき同年10月1日以後に居住用賃貸建物の仕入れを行った場合には、適用しない。

もっと分かりやすく書くとこういうことです。

(令和2年度税制改正大綱84頁から)
居住用賃貸建物の取得等に係る消費税の仕入税額控除制度等の適正化

① 居住用賃貸建物の取得に係る消費税の仕入税額控除制度について、次の見直しを行う。

イ 商業用の建物以外の建物であって
1,000万円以上に該当するもの(以下「居住用賃貸建物」という。)の課税仕入れについては、
仕入税額控除制度の適用を認めない
こととする。
ただし、居住用賃貸建物のうち、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな部分については、
引き続き仕入税額控除制度の対象とする。

ロ (省略)

②~④ (省略)

(注)上記①の改正は令和2年10月1日以後に居住用賃貸建物の仕入れを行った場合について、・・・(省略)・・・適用する。
ただし、上記①の改正は、同年3月31日までに締結した契約に基づき同年10月1日以後に居住用賃貸建物の仕入れを行った場合には、適用しない。

建物は、商業用と居住用に大きくわけられます。
さらに混合型もしくは総合型と呼ばれる商業用と居住用が複合した物件があります。
今回は、1,000万円以上(税抜)で購入する居住用の建物の全部、混合型の居住用部分に係る消費税については、消費税申告にあたり、消費税額控除を受けることができなくなるということです。

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消費税還付スキームへの影響

既に消費税還付を受けている場合

今回の税制改正大綱をもとにした税制改正が実現しても、既に消費税還付を受けている場合は、影響はありません。

令和2年9月30日までに居住用建物を購入し、かつ、その物件の引渡を受ける場合

これまでどおりの、消費税還付スキームを講ずることが可能です。

物件の引渡が令和2年10月1日以降になるが、令和2年3月31日までに契約を締結している場合

その物件について売買契約書(工事請負契約書でもOK)を締結している場合は、消費税還付スキームを講ずることが可能。
ただし、日付は後付で書き換えることも可能なため、疑いをもたれないためにも、手付金の受領などは、しっかり行っておいた方がよいでしょう。

物件の引渡が令和2年10月1日以降になってしまう場合(その物件の契約が令和2年4月1日以降の場合)

消費税還付スキームを講ずるのはムダになります。

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改正に思うこと

今回の税制改正大綱(たたき台)がそのまま税制改正につながってしまいますと、誰も得をしない制度になってしまいます。

以下の者は、完全にとばっちりを受けた者になります。
・不動産周りのビジネスを行う者
・福利厚生を目的とした社宅購入を考えていた事業者

将来インボイス制度が導入された場合には、現行の消費税還付スキームでのやり方が通用せず、結果的に消費税還付スキームは下火になることが明らかです。
とは言っても、インボイス制度は、消費税の制度そのものの在り方に近づく公平な税制という正論がありました。
したがって、専門家の立場からは、零細事業者(弱者)に対する配慮という点からでしか批判する以外ないのが現状です。

ところが、今回予定される改正は、作為的な消費税還付とは無関係な事業者を巻き込んだ増税であり、不公平な税制改正です。
インボイス制度の導入まで、なぜ待てなかったのか、理解に苦しみます。