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「今年相続があって、その相続で取得した不動産を貸付け始めて不動産所得が発生するので、確定申告をお願いします。」

今年実際にあった事案です。
もちろん、お引き受けします。
よくあるような案件なのですが、危険が潜んでいるので注意が必要です。

よくよく話を聞いていきますと、相続で取得したタワーマンションの1室は、亡くなった母様が実家を売却して得たお金をもとに購入し、そこで暮らしていたとのこと。

(頭の中)

「古い実家は、先祖代々の土地っぽいな~、とすると取得価額は不明だろうな」
「広い土地を売却しているな~、しかも高額。その半分以下の価額でタワーマンションを買ったのか」
「とすると、居住用財産の3,000万円特別控除を利用しても相当な税金がでたはずだ。」
「もしかしたら、居住用財産の買換えの特例を使った方が税金は安かったかもな」

(ここまで頭の中で約1秒)

ヒアリングを続けました。
よくあることですが、依頼者は亡き母の確定申告の内容について何も知らないようです。
面談後、亡き母様の過去の確定申告書を探してもらいましたが、当時の確定申告書は出てきませんでした。

さあ、大変です。

過去に亡き母様が「買換え特例」の適用を受けているか、否かで、相談者(依頼者)の不動産所得の計算が違ってきます。
具体的には、貸付しているタワーマンションの減価償却費の計算が違ってくるのです。

減価償却費の計算はもちろん、将来このタワーマンションを売却すれば譲渡所得の計算にも影響が及びます。
買換え特例の適用を受けたタワーマンションの取得価額は、実際の買値ではなく、買値と比較したら、著しく低い価額です。
相続人である売却当人が取得価額より安い金額で売却していても、故人が特例を適用していたことにより、想定外の売却益が発生してしまうのです。
当然、それに応じた税金が発生します。

実際、何も知らずにそのまま買値を使って申告してしまい、依頼者に多額の税負担を与えてしまう税理士が多いのです。
これは税理士の損害賠償問題です。
しかも訴えられれば、確実に損害賠償となる案件!!!

買換えの特例の適用を受けているか否か、調べる必要があります。
税務署にて過去の確定申告書の閲覧をしようにも、古い確定申告書は税務署の保管期限を過ぎていると廃棄されてしまいます。

また、故人の確定申告書の閲覧請求は、相続人税全員から委任状をもらう必要があるなど、代理人の税理士にとっては厄介なシロモノです。

「どうすればいいのか?」問い合わせてみると、税務署の方で調査が必要とのことでした。
調査結果は、税務署に事前予約という形で直接税務職員から依頼者に回答してもらうことになりました。

結果、買換えの特例の適用は受けていませんでした。

リスクなし案件と分かり一安心とともに、珍しい事案なので、実務家の立場としては、買換え特例の適用を受けた後の申告を引き受けたかったです。

ここまでの一連の話は、確定申告が本格的に始まる2月前半のうちの1週間のことでした。

そのすぐ後、2019年2月10日発売の税務雑誌で、買換え特例の適用を受けた場合には、税務署内部に「取得価額引継整理票」というものがあることを知ることになりました。
この「取得価額引継整理票」の存在を知っていれば、右往左往せずに済んだはずです。

「取得価額引継整理票」とは?

簡単にいうと、「取得価額引継整理票」とは、税務署が後々の税務調査に役立てるため、納税者が「買換えの特例」などの課税の繰延べを適用した確定申告があった場合に、税務署内部で作成される資料のこと。

「取得価額引継整理票」はどこに在るのか?

かつて「取得価額引継整理票」は、買換え資産の所在地の所轄税務署に保管、管理されていた。

なるほど、所在地順に整理しておく方が管理しやすい。

ただ、「買換え資産の所在地の所轄税務署とその買替え特例の適用を受けた納税者の住所地の所轄税務署が同じとは限らない。むしろ納税者の住所地の所轄税務署の方が管理しやすいのではないか?」と私は疑問を感じた。

結論として、平成12年以降(?)は、どちらかに在るらしい。

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「取得価額引継整理票」に法的拘束力はあるのか?

「取得価額引継整理票」は、昭和56年110月23日付直資秘4-9ほか6課共同国税庁長官通達「資産税事務提要の全部改正」に、作成することが求められています。

「税務署のメモ程度にすぎない、だから信用できない」と納税者はタカをくくってはいけません。

買換えの特例の適用を受けたことを知らずに提出した確定申告書が、税務調査で問題になっても、最終的に裁判になったら同通達を根拠に「負け」は確実です。
裁判では日記が証拠になることもあるのだから、客観性、確実性の程度が高いのは当たり前といえます。

「買換え特例」の適用を受けた場合の注意

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買換え特例の適用を受けた当事者が注意すること

・「買換え特例」の適用を受けた年の確定申告書は、ずっと保存すること
・「買換え特例」の適用を受けた年の確定申告書を依頼した税理士とは、できるかぎり縁を切らないこと
・「買換え特例」の適用を受けた不動産は、課税の繰延べを利用して納税を先送りにしているのだから、残された遺族に迷惑をかけないためにも、できるかぎり自分の代でその不動産を売却すること

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買換え特例の適用を受けた可能性がある不動産を取得した相続人が注意すること

・被相続人の相続税がかからない場合でも、早めに税理士に検討してもらうこと
・「買換え特例」の存在を知らない税理士は多いため(筆者の体感では70%は知らないと思う)、税理士選びには気をつけること
・「買換え特例」の適用は代を経ても永久に消滅しないため、思わぬ課税問題が発生することを頭にいれておくこと