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2022年10月7日国税庁は、いわゆる副業収入の所得区分の考え方を明らかにした「所得税基本通達の制定について」を公表しました。

その前に、2022年8月1日国税庁は「所得税基本通達の制定について」の改正案に対するパブリックコメントの募集をしました。

これには、予想を超えるブーイングがあがり、集まったパブリックコメントは7,059通にものぼりました。

筆者は、パブリックコメントにどれだけ反対意見が集まろうが、そのまま改正されると思っていました。
ところが、当初案から相当な軌道修正がなされた新通達が公表され、驚いています。

とは言っても、国税のスタンスが変わったわけではなく、国税が啓蒙する「事業所得が認められる良好な納税者とはこういうものだ」ということを明文化したにすぎないのです。

今回の記事は、税理士としての筆者なりの解釈を交えて改正通達にふれていきます。

パブリックコメント版の確認

パブリックコメント版の改正案は以下のようになっていました。

所得税基本通達35-2のパグリックコメント募集時の改正案(アンダーラインを付した部分が改正案部分)

(業務に係る雑所得の例示)
所得税基本通達35-2

次に掲げるような所得は、
事業所得又は山林所得と認められるものを除き、
業務に係る雑所得に該当する。
(1)~(6)省略
(7)営利を目的として継続的に行う資産の譲渡から生ずる所得
(8)省略

(注)事業所得と業務に係る雑所得の判定は、
その所得を得るための活動が、
社会通念上事業と称するに至る程度で行なっているかどうかで判定するのであるが、
その所得がその者の主たる所得でなく、
かつ、
その所得に係る収入金額が300万円を超えない場合には、
特に反証のない限り、
業務に係る雑所得と取り扱って差し支えない。

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公表された改正通達

パブリックコメントを受けて、以下の改正通達が公表されました。

改正後の所得税基本通達35-2(アンダーラインを付した部分が最終的に改正された部分)

(業務に係る雑所得の例示)
所得税基本通達35-2

次に掲げるような所得は、
事業所得又は山林所得と認められるものを除き、
業務に係る雑所得に該当する。
(1)~(6)省略
(7)営利を目的として継続的に行う資産の譲渡から生ずる所得
(8)省略

(注)事業所得と認められるかどうかは、
その所得を得るための活動が、
社会通念上事業と称するに至る程度で行なっているかどうかで判定する。


なお、その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がない場合(…省略…)には、

業務に係る雑所得(…省略…)に該当することに留意する。

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改正通達の注意書の解説

(注)以降を確認していきます。

原則的には社会通念で判定

注意書の前段では、原則的な取扱いを明らかにしています。

原則は、事業所得に該当するには「事業所得と認められるかどうかは、社会通念上事業と称するに至る程度で行なっているかどうか」としています。
総合的に判定するスタンスであることは全く変わっていません。
これは昔から今日まで、パブリックコメントの前後も国税のスタンスはそのままです。

さらに国税庁の解説では、社会通念の判定については、以下の2つ最高裁の判例の諸点を総合勘案して判定することを明らかにしています。

自己の計算と危険において独立して営まれ、
営利性、有償性を有し、
かつ反復継続して遂行する意思と
社会的地位とが客観的に認められる
業務から生ずる所得
(最判昭和56年4月24日)

いわゆる事業にあたるかどうかは、
結局、一般社会通念によって決めるほかないが、
これを決めるにあたっては
営利性・有償性の有無、
継続性・反復性の有無、
自己の危険と計算における企画遂行性の有無、
その取引に費した精神的あるいは肉体的労力の程度、
人的・物的設備の有無、
その取引の目的、その者の職歴・社会的地位・生活状況
などの諸点が検討されるべきである
(最判昭和48年7月18日)

しかしながら、個々人が事業所得か雑所得かを社会通念で判断することは難しいのが現実です。

想像してみてください。

確定申告時期での税務署の無料相談の場で、できれば事業所得として申告したい納税者と、対応する現場の税務職員が社会通念を論じあっていたら、収まりがつかないです。

仕方ないから帳簿書類の保存で判定

そこで、あらたに「帳簿書類の保存」という基準があれば、とりあえず、その場は収まるじゃないですか。
筆者の憶測にすぎませんが、そういうことだと思っています。

とりあえず、国税庁の現実的な対応策として、いったん事業所得の申告として受理しておいて、事業所得の該当性に疑義があれば、個別で対応すればよい、ということだと思います。

筆者なりの解釈をするならば、納税者に真っ当なビジネス思考が備わっているか?
真っ当なビジネス思考があれば、当然、記帳や帳簿書類の保存は当たり前というところです。

帳簿書類の保存があっても事業所得とは認めがたい個別判断の例示

帳簿書類の保存があっても、以下の場合には、自動的に事業所得に区分されるということではなく、個別の判断になるとされています。

以下国税庁の解説の引用です。

① その所得の収入金額が僅少と認められる場合
② その所得を得る活動に営利性が認められない場合

①は、その所得の収入金額が、おおむね3年程度の期間300万円以下で主たる収入に対する割合が10%未満の場合は、「僅少と認められる場合」に該当すると考えられます。

②は、その所得がおおむね3年程度赤字で、かつ、赤字を解消するための取組を実施していない場合は、「営利性が認められない場合」に該当すると考えられます。

https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/kaisei/221007/pdf/02.pdf

詰まるところ、真っ当なビジネス思考があれば、①②などクリアできて当然のはずです。

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雑感

改正通達により、本業、副業の区分が取り払われ、帳簿書類の保存を要件に事業所得として申告することが事実上可能になったと言えます。
近年の副業を推進する政府の方針とそれに逆行する従来の国税のスタンスとの落としどころが今回の帳簿書類の保存要件の導入かと。
結果として、帳簿書類の備え付けゼッタイという国税側の正論がこれまでにない規模でアナウンスされることになったと思います。

たとえ、副業であっても青色申告が増えるならば、国税組織運営の点から鑑みてメリットが多いと判断したのかもしれません。

納税者は事業所得して申告したものの、後から国税側が事業所得ではなく雑所得と判定し、納税者が追徴課税は無効であるとして争う裁判は今後も現れるとは思いますが、それは稀なケースです。 


正直、社会通念の判定に困らされてきた税理士にとっては、渡りに船と言えます。