前編(当ブログ#71)では、2022年8月1日に発表された所得税の改正通達案について、まずは知っておいてもらい知識、背景を解説しました。
事業所得の赤字は損益通算できるが、雑所得の赤字は損益通算できないこと。
サラリーマンの副業を事業所得の赤字として給与所得と損益通算し、税金を還付する「ちょいワル還付スキーム」が増加していること。
副業を確定申告するサラリーマンが増加したことに伴い、ようやく国税庁が通達改正に動いたこと。
後編では、改正案をざっくり紹介し、2022年(令和4年)の確定申告を自主的に申告するにあたって、税理士として納税者に正しい理解をしてもらいたく、記事にしました。
♦目次♦
前編の目次
改正を理解するために知っておく知識
確定申告の場で何が起こっているのか
改正案の概要
改正案は、役所として当たり前ですが、怒りを微塵も感じさせない書き方になっています。
国税の言う改正の背景
シェアリングエコノミー、会社員の副業に係る所得について、事業所得なのか雑所得なのか、所得区分の判定が難しいといった課題があったとしています。
業務に係る雑所得の範囲の明確化
令和2年分(2020年分)から確定申告書の様式において、雑所得は以下3つの区分に分けられることになっています。
- 公的年金等に係る雑所得
- 業務に係る雑所得
- その他雑所得
今回の改正案では、通達として「業務に係る雑所得」と「その他雑所得」が整理されることになりました。
(この記事では「その他雑所得」(所得税基本通達35-1改正案)については言及しません。)
改正案は以下のようになっています。
とりわけ、通達の最後に(注)が追加されたことが注目されています。
所得税基本通達35-2の改正案(アンダーラインを付した部分が改正部分)
(業務に係る雑所得の例示)
所得税基本通達35-2
次に掲げるような所得は、
事業所得又は山林所得と認められるものを除き、
業務に係る雑所得に該当する。
(1)~(6)省略
(7)営利を目的として継続的に行う資産の譲渡から生ずる所得
(8)省略
(注)事業所得と業務に係る雑所得の判定は、
その所得を得るための活動が、
社会通念上事業と称するに至る程度で行なっているかどうかで判定するのであるが、
その所得がその者の主たる所得でなく、
かつ、
その所得に係る収入金額が300万円を超えない場合には、
特に反証のない限り、
業務に係る雑所得と取り扱って差し支えない。
適用時期
令和4年分(2022年分)の確定申告から適用
注意書の解説
下段の(注)を確認していきます。
社会通念上の事業の判定
まずは、何はともあれ「社会通念上事業と称するに至る程度で行なっているかどうか」総合的に判定するということです。
前編(当ブログ#71)で紹介した最高裁の判例は以下のようなものでした。
自己の計算と危険において独立して営まれ、
営利性、有償性を有し、
かつ反復継続して遂行する意思と
社会的地位とが客観的に認められる
業務から生ずる所得
(最判昭和56年4月24日)
最高裁の判例をもとに実務的には、6つの要素を総合的に勘案し、事業所得か否か判定します。
- リスクをとっているか
- 独立しているか
- 継続性はあるか
- 心身ともに費やしているか
- 設備投資はあるか
- 安定した収入はあるか
金額による形式基準の導入
それでも判断が難しい場合は、「その(副業)所得がその者の主たる所得」なら事業所得として認容するケースがある、と解釈できます。
近年は、昔と違って副業が盛んになり、サラリーマンとしての給与以上を副業で稼ぐ人も増えてきた社会実情に沿ったものといえます。
ただし、副業でサラリーマンとしての収入と比較して稼いでいない場合(「その(副業)所得に係る収入金額が300万円を超えない場合」)は、一律300万円という基準でバッサリ雑所得として扱いますよ、ということです。
と言っても、納税者の事情、実情、態様は千差万別です。
「特に反証のない限り」として、いちおう個別の反論を聞く耳は持っていますよ、というエクスキューズが入っています。
多くの人が勘違いしていること
改正案の発表を受けて、副業の収入が300万円超えるように頭を悩ませている納税者が多いようです。
残念ながら、それは全く制度の本質が理解できていないです。
副業収入から必要経費を差し引いた副業所得の金額の大きさを意識するべきです。
その副業所得と給与収入を比較して、副業所得が大きい場合に、ようやく事業所得と認められる可能性が生ずるのです。
国税庁の発表によると、近年の給与収入の全国平均は400万円を超える程度です。
だとしたら、何はともあれ1年間の副業所得が400万円を超えるように、もっと頭を捻る必要があるのではないでしょうか?
ひとこと
最後に一番大事なことをいいます。
本人の職業・経験と社会的地位
これが本当に重要な要素で、ほとんどこれで決まります。
雇用される立場の弁護士その他士業、同じく医師その他師業、上場企業(グループ会社を含む)のサラリーマンについては、いくら副業で稼いでも副業が事業所得として認められることはないと思います。