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「(法人税の欠損金の)繰戻し還付ってさ~、地方法人税も還付されるの知ってた?」

「なにそれ?」

↑税理士同志の会話です。

残念ながら、「知ってるよ」と答えてくれたのは、勉強熱心なU支部のK先生だけでした。
さすがK先生。
私もK先生が勉強熱心なのを知っているから、尋ねてみたのです。
税理士全体の名誉のためにも言っておきますが、3人にしか尋ねていません。

実はこの「欠損金の繰戻し還付」は、実務では調査が前提にあり、実行するには躊躇しがちでなかなか機会がないのです。
さらに、地方法人税は平成26年10月以後開始の事業年度の法人から適用になりました。
歴史の浅い税ですので、なおさら地方法人税の繰戻し還付ができることに気付かないケースが多いのです。

そんな訳で、実務家も見落としやすい地方法人税の繰戻し還付ですが、つい最近専門家の間でよく読まれる「税務通信」に衝撃の記事がありました。

地方法人税の還付に自動で対応する会計ソフトは少ないため、結果、地方法人税の還付を受けていない中小企業者等が相当数あるものと考えられる。(筆者要約)

そうなんです。
実は少し前まで筆者が使用している税理士専門の会計税務システムは、ソフトウェア上法人税申告書に自動で数字が転記されてこない仕組みでした。
したがって、法人税申告書の記載欄には自分で手入力していたのです。
ですから、税理士が地方法人税が繰戻し還付されることを知らない、使用している専門家向けソフトウェアも対応していない、という散々な状態ですので、知らないところで損害を受けている中小企業者が相当あるらしいです。

そこで今回は、地方法人税の繰戻し還付にまつわるお話です。

制度の概要

地方法人税とは?

「地方法人税」という名称に似合わず、実は「国税」です。
「地方税」ではありません。
地方法人税額は確定法人税額に税率4.4%(2019年10月1日以降は10.3%)を乗じた額になります。
だから、便宜上国税である地方法人税は、同じく国税である法人税の申告書に記載して申告します。

納付書は、法人税と地方法人税それぞれ別々のものを使用します。
別々の税を同一の申告書に統合して申告するのに、納付書は別。

何このムダは?
なんともおかしなものです。

欠損金の繰戻し還付とは?

前期に利益がでた結果として法人税の納付し、今期は損失になってしまった場合、前期の利益と今期の損失を相殺して、前期分の法人税の全部または一部を還付してもらう制度を「欠損金の繰戻し還付」といいます。
ただし、繰戻し還付は、国への法人税に対してのみ認められています。
都道府県および市町村の法人税に繰戻し還付の制度はなく、翌期以降に損失を繰り越すしかありません。
この制度は、青色申告法人の特典であり、資本金1億円以下の中小企業が適用対象とされます。

欠損金の繰戻し還付の適用を受けるためには、法人税の申告書の提出期限までに「欠損金の繰戻しによる還付請求書」を提出する必要があります。

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地方法人税の繰戻し還付にまつわる問題点

欠損金の繰戻しによる還付請求書の不備

「欠損金の繰戻しによる還付請求書」には、地方法人税の還付請求額を記載する欄がない。
だから、「地方法人税は繰戻し還付できない」と誤解している税理士が減らないのではないか?と思う。
もう地方法人税が導入されて何年も経っているのだから、そろそろ所定の様式を変更すべきだと思う。

税務署からは連絡してこないこと

いくら法人税申告書の還付金額が記載されていないからといって、税務署が本来受けられるべき地方法人税を還付しないのはおかしい。

前述の税務通信によると、すべての税務職員が記載漏れ、還付する旨を連絡してくるわけではないようで、全国一律の対応は徹底されていない様だ。

筆者はその点ぬかりがないため、税務署から「地方法人税の還付があります連絡」を受けることは未来永劫ないし、連絡の有無は本当のところ知らない。
税務通信から伺い知るところでしかない。

おかしいと思う理由に条文を読むとこうある。

税務署長は、還付請求書を提出した内国法人に対して法人税を還付する場合において、
その基準法人税額に対する地方法人税の額があるときは、
確定地方法人税額のうち、欠損金の繰戻しによる還付金の額に地方法人税の税率を乗じて計算した金額に相当する金額を併せて還付する。

ただし、欠損金事業年度に該当する課税事業年度については、
地方法人税確定申告書の提出がない場合には、この限りでない。
(地方法人税法第23条第1項 筆者省略)

ただし書きにある「地方法人税確定申告書」は、独自の申告書が無い。
当初は独自の申告書を予定していたが、日本税理士連合会の要望で法人税申告書に統合された。
その結果、条文が骨抜きになり「提出がない場合」に該当することは、法定申告期限内に法人税申告書を提出している限り、ありえない。

したがって、還付請求書が提出されている限りは、仮に法人税申告書別表1に還付地方法人税の金額の記載が無かろうと税務署は地方法人税を還付しなければならないはずである。

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まとめ

地方法人税の還付請求は・・・

  • 対応していない会計ソフトが多い
  • 税理士も知らない者が多い
  • 本来還付があることを税務署も教えてくれないことがある