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簿記の勉強が進んだ人が会計事務所で仕事を始めると戸惑うことがあります。

そのひとつが個人事業者の勘定科目「事業主貸」「事業主借」です。

簿記の入門書、日商簿記検定の勉強は、一般的に法人の経理業務を想定しています。
ですから、個人特有の処理である「事業主貸」「事業主借」にいろいろと疑問が沸くと思います。

実際、筆者も最初の会計事務所に勤めたとき、事務所の先輩に聞いても、ハッキリと答えてくれる人はいませんでした。
事務所の先輩もよく分かっていなかったようです。
今おもえば先輩が勉強不足なのですが・・・。

そんな感じですから、当然、個人事業を始めて確定申告を自ら行う経理初心者には「事業主貸」「事業主借」が理解できないと思います。

そこで、今回は「事業主貸」「事業主借」の疑問をカンタンにまとめたいと思います。

「事業主貸」として計上するものは?

必要経費にならない支出を、具体名は使わずに形式的に使うものというイメージで捉えるとよいと思います。
具体的には以下のものになります。

・生活費にあたるもの(現金出納帳・預金通帳からの生活費の引き出しなど)
・決算整理のときに、家事関連費のうちか家事分として必要経費から除外するもの
・業務用と生活用に使う建物、自動車などの減価償却費のうち生活用(家事用)として計上するもの
・業務用資産を売却して、譲渡損がでた場合の差額相当分として計上するもの
・売上に計上すべき家事消費分の貸方項目

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「事業主借」として計上するものは?

所得区分に応じて計算しようとしている所得以外の収入を、具体名は使わずに形式的に使うイメージで捉えるとよいと思います。
具体的には以下のものになります。

・生活用の現金等で支払った業務用の必要経費
・預金通帳の利子(税引後)
・業務用資産を売却して、譲渡益がでた場合の差額相当額として計上するもの

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「店主貸」「店主借」との違いは?

会計ソフトによっては、「店主貸」「店主借」が標準装備されているようです。
店主貸=事業主貸、店主借=事業主借だと思って問題ありません。

ただ、国税庁が用意している様式である「青色申告決算書」には、「店主〇」ではなく「事業主〇」と印字されています。
したがって、本筋は「店主〇」ではなく、「事業主〇」かと。

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「事業主貸」と「事業主借」は相殺できるのか?

会計ソフトでは仕訳上の相殺はできます。
相殺を禁止する規則もありません。
それでも、あえて表現するなら、相殺しないものです。

というのも職業会計人が事業主貸と事業主借を相殺していたら、センスを疑われます。
なぜなら、総額主義の原則というものがあるからです。

総額主義の原則をカンタンに説明します。
総額主義の原則とは、資産と負債を相殺して貸借対照表から除くことを禁止するものです。
ここでは、事業主貸=資産、事業主借=負債と思ってください。

次の設問の説明で具体例をあげます。

「事業主貸」と「事業主借」を区別する意味はあるのか?
事業主借に代えて、事業主貸を貸方項目に使えばよいのでは?

(前問からの流れになります。)

区別せずに事業主貸に統一することと事業主貸(資産)と事業主借(負債)を相殺することは、同じようにみえます。

ところが、総額主義の原則を守って作成された貸借対照表をみてみると、役に立ちそうな情報が見えてくるのです。

例えば、会計ソフトを利用して1年間の会計データを入力したとします。

貸借対照表の事業主貸の金額の規模(累計)は、1年間の生活費の程度が推測できます。
また、同じく事業主借の金額の規模(累計)は、1年間の事業用資金の不足を把握できます。

つまり、生活費の多さ、少なさ、事業資金の不足の程度といった規模感を直感的に感じることができるのです。

これらは一例ですが、事業主貸・事業主借のデータ集計を工夫することで、何か気づきを得られることがあります。

せっかく会計データをまとめるのですから、会計データから起こした貸借対照表を通して少しでも気づきを見つけたいところです。