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個人事業主が自宅を事務所として使用する場合には、業務に使用した部分については、必要経費として計上できることが個人事業者の間では当たり前の感覚になってきているように感じます。

事業所得については、自ら労務を提供することで生活の糧を得ているわけですから、業務に関連する家事関連費の幾許かは、必要経費とすることができることになっています。

それでは、不動産所得についても同じことが言えるでしょうか?

不動産所得は、不労所得とも言われ資産から生ずる所得であり、自らの労務から生ずる部分は限定的です。
事業所得と同様に不動産所得においても、自宅兼事務所として使用しているのだから必要経費にできると考えるのは、税理士の立場からは浅はかだと思うのです。

不動産所得において、自宅兼事務所の必要経費算入の可否を争った判例、裁決例は多くはないのが実情です。
判例が少ない以上、それぞれのケースは事実に基づいて異なることになろうことから、一般化できる判断基準を示すことは難しいです。

しかしながら、多くの納税者にとって、残念ながら当てはまってしまうであろう、自宅兼事務所を必要経費とすることが認められなかった納税者敗訴の判例がありますので、紹介します。

東京地裁平成25年10月17日判決とは?

事案は事業所得ですが、不動産所得にも通底しており、事業所得は不動産所得より労務性が強いことから、不動産所得に当てはめてみても判決の蓋然性は高いです。

前提・実態

以下原告である納税者が主張する実態になります。

  • 自宅は3LDK・2階建ての賃貸物件、納税者と家族3人の4人住まい
  • 当該賃貸物件の構造は、1階のLDK、洗面所、トイレ、浴室、2階3室の洋室
  • 保険代理店の業務として、1階を連日の会議、食事会のための事業専用、2階の3室のうち1室を事務作業、個別の打ち合わせのための事業専用と主張
  • 住宅の総面積87㎡のうち、上記事業用としている部分の面積の合計は53㎡(53/87≒60%)
  • 自宅家賃17万円のうち60%部分を地代家賃として必要経費算入

裁判所の判断

家事関連費の支出について事業所得等を生ずべき業務の遂行上の必要性があるというためには、
当該家事関連費の支出が上記業務の遂行との間に何らかの関連性があるというのみでは足らず、
また、
単に事業主が主観的に必要であると判断することではなく、
その必要性が客観的にみて相当であることを要するというべきである。

以下、家事関連費に該当する本件地代家賃を必要経費とすることはできないと結論を下しています。

本件住宅は、全体として居住の用に供されるべき3LDKの2階建て住宅であり、
その構造上、本件住宅の一部について、居住用部分と事業用部分とを明確に区分することができる状態にないことが明らかであり、
原告がその家族と共に本件住宅に居住していることを併せて考えると、
…(省略)…
本件住宅のリビング等を本件各業務の専用スペースとして常時使用し、
それ以外の用向きには使用していなかったとは考えられず、
むしろ、居宅である本件住宅において、
原告が家族と共に家庭生活を営みつつ、本件各業務…(省略)…を行っていたものと認めるのが相当である。

したがって、本件住宅のうちのリビング等が、
本件各業務のためのいわば専用スペースとして使用されていたことを前提として、
本件地代家賃のうち本件住宅の全面積にリビング等が占める割合に相当する部分を本件各業務の遂行上必要な金額であるという原告の主張を採用することはできない。

私的整理

生活を営むための基本的な衣食住に関する費用は、家事費に該当します。
本件地代家賃は、家事関連費として以下のように整理できると考えます。

客観的にみて生活の本拠に違いないこと ⇒ 主 
生活費を得るため業務使用の実態があること ⇒ 従

所得税法施行令第96条は以下の要件を求めています。

・主たる部分が業務の遂行上必要であること 
・その部分が明らかにできること 

裁判所の判断は、本件地代家賃の賃貸物件という構造上、客観的にみて業務の遂行上必要であるその部分が明らかにできないとしています。
本件地代家賃の支払いは、生活の本拠に違いないのだから「主」というより「従」の部分でしか業務用になりえないとも言えます。

したがって、法令上2つの要件を満たしていないのだから、当該地代家賃は必要経費にならないというのは、やはり妥当な結論と言えるのではないでしょうか。

ところで、所得税基本通達45-2には、50%基準があります。
「主たる部分が業務の遂行上必要」であるかどうかの判断に50%基準で判定するというものです。
主・従の相対関係により判断すべきでないとの反論もあるかと思います。

ですが、裁判所は独自の立場で法令を解釈して、判断するのがあるべき姿です。
したがって、裁判所は、法令でもない税務通達に拘束されることなく、税務通達を考慮して判断を下す必要はないのです。

参考

東京地裁平成25年10月17日判決全文

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おわりに

店舗併用住宅など第三者がみて明らかに業務用部分を構造上区分できている物件にお住まいでしたら問題ないです。
残念ながら、単なる居住用の賃貸物件に住まう納税者にとっては、ほぼほぼ当てはまってしまう判例になっています。

この記事を忠告として受け止めてくれる納税者が増えることを願ってやみません。

判決日の覚え方は、双子と(2510)イナ(17)バウアー