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税理士は、毎年確定申告期における無料申告相談に従事しています。
筆者も当番を割り当てられ、無料申告相談の対応をしています。

普段は顔なじみのクライアントの相談を受けているので、だいたい想定内の相談内容が多いです。
でも、無料申告相談では当然ながら初対面の相談者になり、なかにはレアケースな税務論点にも遭遇します。

今回は、その相談の場で悔恨の事例がありましたので、それを記事にします。

相談者は、年配の女性でした。
その女性は、息子の納税管理人として相談にみえました。
その息子は、地方公務員ながら海外勤務をしています。
某市から給与の支払いを受け、源泉徴収票を交付されており、息子所有の自宅は貸家にだしているとのこと。
つまり、給与所得と不動産所得がありました。

しっかり「納税管理人の届出書」の控まで持参していました。

納税管理人の届出書の控を確認し、もうその時点で「納税管理人あり=非居住者」だと思い込んでしまったのです。

税務署が無料相談に従事する税理士のためにA4で厚さ8cmはあるかと思われるマニュアルを常備してくれています。
しかしながら、そのマニュアルのなかには非居住者の解説はありませんでした。
そこで、その相談者の女性の対応は、税務職員にバトンタッチしてもらいました。

相談会場をあとにして、手っ取り早く、懐かしい税理士受験対策のテキストで確認するまで勘違いしたままでした。

公務員の住所の判定の特例

通常、居住者として日本国内で勤務していた者が、当初予定で1年以上の海外勤務となった場合は、非居住者として所得税の課税の適用を受けることになります。

ところが、公務員の場合は勝手が違うのでした。

根拠条文の確認

所得税法第3条
国家公務員又は地方公務員は、
国内に住所を有しない期間についても
国内に住所を有するものとみなして、

所得税法の規定を適用する。

公務員は、原則として海外勤務であっても、日本の所得税では非居住者ではなく居住者として扱われます。

特例の趣旨

海外勤務する公務員を非居住者としてではなく、居住者扱いとする理由は、以下のように説明されていました。

国際的慣行として外国の公務員に対して所得税を減免する等の取扱いを行っている国があるため、
もし、日本国で所得税課税ができないとすれば、
国家公務員や地方公務員に係る所得税課税が行われなくなる可能性が想定されるため

※ 渡辺淑夫編『国際税務の疑問点』ぎょうせい、2010年、23頁

たしかに、日本在中の外国の外交官の給与は、日本での所得税は非課税としています。
これは国際的慣行に沿って非課税としているわけです。
だから、自国の公務員に対しては、外交官のように海外勤務であろうと日本国で所得税を課税することでバランスをとっています。

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公務員に納税管理人は必要か否か?

では、税務上は居住者に該当するけれど、日本から離れることを理由に納税管理人が必要になるのでしょうか?

国税通則法第117条
個人である納税者が
この法律の施行地に住所及び居所(・・・省略・・・)を有せず、
若しくは
有しないこととなる場合において、

納税申告書の提出その他国税に関する事項を処理する必要があるときは、
その者は、
当該事項を処理させるため、
この法律の施行地に住所又は居所を有する者で
当該事項の処理につき便宜を有するもののうちから
納税管理人を定めなければならない。

法律の文言通り、公務員のケースにおいても納税管理人の届出は必要になります。

所得税法では、「国内に住所を有しない期間についても国内に住所を有するものとみなし」ます。
納税管理人を定める国税通則法では、そのまま「(日本に)住所を有しないこととなる」ため、納税管理人を定める必要があります。

これは、所得税法と国税通則法が全く違う法律に他ならないからです。

ネット上では、税務署が納税管理人は必要はないと指導するケースが報告されています。
実務上は、海外勤務する公務員が納税管理人を定めなくても問題ないケースが多いかと思います。
ただ、今回のケースのように給与所得以外の所得がある場合は、税務調査の可能性があります。
税務職員が海外在中の納税者に連絡をとる等は厄介になりますので、納税管理人を定める方がベターだと思います。

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まとめ

日本の公務員が海外勤務をする場合は・・・

  • 所得税では、原則として非居住者ではなく居住者扱いになること
  • 国税上は居住者だけれど、(人によっては地方税も)納税管理人の届出をすること